2023年7月12日(水)深夜の豪雨災害の記録
専務 吉田
夜10時、もう寝ようとしてベッドに横になっていた。
暑い夏は短パンとTシャツというラフな格好。(これが後にパジャマ姿でなくて本当に良かったと思うことになる)暗くしていた寝室に保育士の長女が真っ青な顔をしてドアを開けて来た。
「お母さん、大変や!保育士仲間のTさんからラインが来た、近所の津幡川に入り込む総門川が今にもあふれそうやって!」
「えぇっ!」
私の頭によぎったのは59年前の津幡川の氾濫で町中が洪水になった情景。幼いながらも記憶に鮮明に残っている、茶色く濁った津幡川に、ある古い家が崩れながら流れている惨状。小さい頃の一番覚えている記憶。(私の年齢がバレバレだわ(笑))
「お母さん、今すぐに緊急カバンに大事な物を詰め込んでどこかに避難しんなんわ!90歳のおばあちゃん(夫の母)がいるから、まずおばあちゃんを連れて安全なところへ逃げんなんわ!れきしるの駐車場に行こう!」
「大丈夫やわいね、大げさや。そこまでしなくっても。」
と言いながらも雨音が激しくなっているのは気になっていた。総門川あたりを見ようとして窓ガラスを開けて見たがよく分からない。夫と長女と私は右往左往した。長女のスマホには、逐一、緊急速報が入って来る。津幡川が氾濫危険水位をあと何メートルかで超えそうだ、とか、能瀬川が今にも氾濫しそうだとか。これはヤバイ!もしかして大変な事になるかもしれない。59年前はスガイ書店も、そして少し離れた所にある自宅も泥水につかった。床上浸水だった。ああなったら商品は全滅だ。
「避難する前に、自宅倉庫に積んである二学期から使用する小学校の教科書がある。それらをまず底上げして高く上げんなんね、手伝って!」
店にも、今夕入荷したばっかりの小学校に納める画材セットが床に積み上げてあった。どうしよう!スガイ書店にいる女社長(私の母、87歳)に電話をかけた。
「もしかして大水になって店の中にも水が入り込むかもしれないから、床に並べてあった画材セットの段ボール箱を机の上に上げて!お願い!」
近くのアパートに住んでいる新婚夫婦の息子(30歳)にもすぐに電話した。
「私達はうちの倉庫にある教科書を守るから、一平は先にスガイ書店に行って、店の本棚の下にある引き出しにいっぱい入っているコミックとかを上にあげて!事務所の床に置いてある物も全部上へ!」
倉庫では、木製の台を積み重ねて底上げした。約100箱の重い教科書段ボール箱を上へ積みなおした。汗びっしょり。この時はまだ、後からまたお風呂に入りなおさなければ!という気持ちだった。お風呂どころではなくなるのは時間の問題だった。
その時だった、息子からの電話が鳴った!
「店のシャッターの下から水が入ってきた!」
皆、青ざめた!顔を見合わせた。どうしよう、どうなるのだろうか?
「○○子(次女)、寝ているけど、どうする?起こしたほうがいいかなぁ?」と私。
「起こさんなんよ!当ったり前やよ!」と長女。
「やっぱりそうやね、緊急事態やしね。」
でも内心、次女がすぐに起きるか心配だった。8年前、夫が急性心筋梗塞で夜中に救急車が来てもぐっすり眠っていて全然起きなかった次女。(苦笑い)
寝ていた次女に声をかけたらすぐに起きた!(お父さんが大変な時は起きなかったのに、今回は起きるんかい!とツッコミ)
「90歳のおばあちゃんは、どうする?」
「この大雨の中、動かすのは尚危ないから、このまま寝かせておこう。ぐっすり寝ているみたいだから」
そして、私達家族は短パン、Tシャツ姿のまま長靴を履いて60メートル先にあるスガイ書店に向かった。ちょっとだけ考えた、着替えていこうか、お化粧は?とか。誰にも見せられない格好だったし(誰も見たくない!(笑))髪の毛もぼさぼさだし。まあ暗いしこの非常時、それどころではない!道路はもう途中から地面が完全に見えなくなっていた。
ジャブジャブさせながら長靴の中に泥水が入り込まないように恐る恐る歩いていった。今まで見たことがない光景が。湖の中に浮かんでいるスガイ書店。いったい店の中はどうなっているのだろうか?事務所の中の扉を開けるのが怖かった!泥水の上にプカプカ色々なものが浮いている。驚いている暇はない!とにかくまだ床上にある段ボール箱が濡れているから、その中にあるビニール袋の商品はまだ大丈夫!救出、救出!87歳のこちらのおばあちゃん(スガイ書店の現社長)に私は、
「お母さん、早く、早くそれもこれも上へ!」
と大声で叫んだ。息子はすばやく動いている。動揺している暇はない!寝起きの、あの次女でさえ機敏に行動している。私は、「月刊スガイに載せたほうがいいかもしれない!」なんて考えながら、携帯で惨状を写真に撮った。
「ゴミみたいな物はほったらかしにして!」と息子は叫ぶ。家族総出で頑張った。停電にもなった。もうどうしようもないところで手を止めた。これ以上浸水したら、もう諦めるしかない。涙が出そう!
そうして皆、店の外に出た。空からの雨はやんでいた。周り一面、凪いだ海みたいだった。向かいの焼き鳥店のゴミ、アルミ缶が詰め込まれているビニール袋がどんぶらこと浮かんで流れていった。自動販売機のゴミ箱も横倒しになって流れていった。近所中の人々が不安気に長靴をはいて茫然自失。言葉がなかった。私達は災害記録を残して保険金が出る時のために役に立てようと思った。それが、これらの紙面上の写真。
しばらくしてからテレビ局が取材に来た。
「被害状況を撮らせてもらってもよろしいでしょうか?」
「ハイ、いいですよ、どうぞ」と、ぐちゃぐちゃな店の中を躊躇なく案内した息子(30才)の一平。テレビカメラを向けられてなぜか嬉しそうにヘラヘラしている。(アンタは小学生かい!)でも落ち込んでいても仕方がない。笑うしかない!この超能天気な息子の笑顔から私は明るくなれた。その時の映像は翌日、テレビ金沢の夕方のニュースで流れた。一週間前には、同じテレビ金沢の別の取材を受けたばかりだった。7月17日のテレ金チャン。ご覧になった方もいらっしゃるかと思う。
テーマは【わたしの原点 老舗書店の看板社長】
地元に根づいた創業103年目を迎えた書店の看板社長、今回の災害時で(娘にこき使われながらも(笑))頑張っていた87歳の母親にスポットがあてられた。この103年の間、色々な災害があった。
1963年 38豪雪被害
1964年 津幡川氾濫で浸水
1968年 漏電で店舗全焼
ナレーションの最後は
「このスガイ書店は、この度の豪雨で浸水の被害を受けましたが、
スタッフ一同皆さん力を合わせて復旧に頑張り、営業再開いたしました」と締めくくられた。
2023年 線状降水帯で浸水 がスガイ書店の歴史に加えられた。
あの日、あれほどひどかった雨がピタッと止んだ深夜。気がつけば、7月13日に日付が変わっていた。この日は、26年前に亡くなった父親、スガイ書店の前社長、酒井武治の命日だった。私達は前社長がこれ以上ひどくならないように店を守ってくれたと思えてならなかった。
教科書や本はおかげさまで一冊も濡れなかった。最小限の被害で済んだ。でも、河北郡市で甚大な被害に遭った方々のことを思うと本当に胸が痛い。私達は初めてボランティア活動を今回させていただいた。自分達がこのような被害にあい、スタッフ一同、まわりの方々に助けられた貴重な体験をしたからこそ、もっと大変な被害にあわれた方に手を差しのべてあげたいとの思いがあふれてきた。今回被害に遭われた方々のいつもの日常が訪れることを切に願うばかりです。
最後になりましたがたくさんの方々から励ましの言葉、たくさんのタオルなどの支援を贈っていただき、本当に嬉しかったです。元気が出ました!ありがとうございました!